栄光ある孤立か、それとも

夏の夜、こわいこわい話をしてあげよう。

 

ゴーストワールド [DVD]

 

イーニドとレベッカは幼なじみで親友。高校を卒業したものの、進路も決めずに好きなことをして楽しんでいる。そんなある日、二人はモテないレコードマニアの中年男、シーモアと出会う。ダサイけど独特な世界を持つシーモアにイーニドは興味を持ち、二人の間には奇妙な友情が芽生える。一方、レベッカは独立を目指してカフェで働き始め、イーニドとレベッカはお互いに距離を感じ始める。

Amazonより)

 

キャッチコピーは「ダメに生きる」。

 

社会から孤立した人間にも二種類います。なじめないなりに、誠実に生きてる人間と、社会のことを見下して「あいつらばっかじゃねーの」とせせら笑うタイプの人間です。たとえば高校の卒業式、感動的なセレモニーに盛り上がるクラスメイトを見ながら「こいつら趣味だせー。一般人はこれだから困るわ」と肩をすくめて見せるタイプ。

 

「あ!?わたしも馬鹿にしてた!」と思い当たる節があれば、この映画を観るしかありません。まさにそれが主人公たちのしていたことです。かくいう私も…ブルブルブル。思い出したら寒気がしてきました。

 

主人公の二人、とくにイーニドはほんとにダメな女の子なのです。何ができるわけでもないけど、批判精神と他者を見下すことだけは一人前。これって十代後半に多くのひとがかかる病気みたいなものかもしれないけど、イーニドの世間との相容れなさはグロテスクなまでに強烈。観ていると、自分のダメなとこを拡大鏡で見せられているような気になって、なかなか胸が苦しい。青春の痛みの増幅器みたい。

 

それなのに、友だちのレベッカの方は意外とちゃんと大人になって世間に順応していきます。カフェでちゃんと働いて、アパートを借りて一人暮らしまで始めてしまいます。この前まで一緒に世間のことを馬鹿にしてた仲間が、気づけばしっかり一般人になってしまってる…。その二人の温度差を示すのが、世間に馴染めなくて苦しんでるイーニドに、レベッカが新しい部屋を紹介するシーン。レベッカが「これすごいからさ」と壁を指して自慢してくるので何かと思ったら、壁からスコーンと出てきたのは、造りつけのアイロン台。それを無言で見つめるイーニドの背中がたまりません。

 

そうそう、物語の後半はイーニドと不器用な中年男の友情兼擬似恋愛がキーになるのですが、その中年男演じるのがスティーブ・ブシェミでした。登場した瞬間から爆笑。一応人畜無害な人物という設定なのですが、どうみてもサイコキラーの顔なので、イーニドが彼の部屋に遊びに行く度、監禁事件が起こるんじゃないかとハラハラしてしまいました。いつ刃物が出てくるかと…。いや、かわいかったけどね。あまりの情けなさに、逆にときめきました。若い子にもてあそばれるおっさんの魅力という新境地。

 

この映画、一人で観るのはお勧めしません。あまりの痛みに一人では耐え切れないからです。友だちとポテトチップスでも食べながら、対岸の火事みたいな振りして観る方がいい。それが怪談を観る流儀ってものじゃない。