そして流れゆく川べ

実家で飼っていたネコが死んだ、という連絡を受けました。正確には実家で妹が飼っていたネコで、彼女が独立したときに連れて出た、妹のネコです。

 

仕事が終わって留守電を聞いたら、妹が取り乱した泣き声で吹き込んだ知らせが残ってました。その録音を聞きながら噛み締めたんだけど、なんで一緒に暮らしてた動物が死ぬってあんなに辛いんだろうね。私も今まで犬やネズミや鳥やら飼ってきたけど、毎回文字通り心がちぎれるかと思うほど辛かった。20年近く一緒に暮らした動物もいれば、ほんの数ヶ月で死んでしまった動物もいたけど、いずれの時も頭がだめになりそうなくらい苦しい経験でした。もう二度と会えないのだという悲しみと、もっと何かしてあげられることがあったのではないかという後悔で。

 

しかし一歩ひいて客観的にみたとき、私は妹からこの知らせを聞いてあいつは幸せなネコだったなとしみじみ嬉しく思ったのです。半狂乱になるほど泣いてくれる存在がいてよかった。

 

そのネコ、もとはといえば、15年前に道路脇に捨てられていたのを中学生だった妹が連れ帰ったのが我が家に来たきっかけでした。その頃妹は反抗期まっしぐらで気難しくて、ひととほとんど口もきかないようなやつだったのですが、その彼女が突然ネコを飼いたいと連れてきたときは家族みんなで「どうしよ」と顔を見合わせました。どうも学校をさぼってそこら辺をとぼとぼ歩いてたときに見つけたらしいのです。交通量の多い道路のすぐ傍に捨てられてたそうで、そのままだと死んじゃうからうちで飼うことにしたんだと宣言する妹には誰も逆らえませんでした。

 

そういうわけでネコは死なずにその後15年生き延び、そして妹はネコを飼い出してから口をきくようになり学校をさぼるのをやめました。15年掛けて妹は大人になり、ネコは老ネコになり、でもふたりはほとんどの時間を一緒に暮らしました。ネコは働き始めた妹の帰りをマンションでぽつねんとしながら待ち、妹は腎臓を悪くしたネコのためになけなしの給料から動物病院代を捻出して、ふたり何とか一緒に生活していました。

 

そしてそう振り返ってみると、両者にとってなんと幸せな出会いであり、組み合わせであっただろうと思います。ネコの運命は妹がいなければ途絶えていただろうし、妹の運命だって違ったものになったかもしれない。そのネコをなくした今、きっと妹は頭がおかしくなりそうに悲しいだろうし、これからも数ヶ月か数年は悲しいままだろうけど。

 

でも姉としては思うのです。このふたりが出会えてほんとによかったなって。